Hearthstoneフレーバーテキスト日英比較

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 ついにHearthstoneがハースストーンになったので、Flavor Textをざっと読んでみたら面白い。原文が面白いのもあるが、翻訳者がものすごく苦心して訳したものが数多くある。

 そのうち幾つか(のつもりが結構な数に…)をピックアップしたので、原文と照らしあわせて見ていきたい。Blizzardの考えるローカライズの方向性や翻訳者の目論見を理解する一助となれば幸いである。

 

追記:新拡張版「旧神のささやき」のフレーバーテキストについても記事を書きました。

 

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Feugen

「フューゲンはスタラグの方が人気があるのを密かに妬んでおり、インターネット掲示板で中傷することで憂さを晴らしている。」

原文:Feugen is sad because everyone likes Stalagg better.(フューゲンが悲しんでいるのは、みんなスタラグの方が好きだからだ。)

はい!翻訳者の悪ノリですね!後半部分の「インターネット掲示板で中傷〜」というのは原文には一切ない。勝手に2ちゃんねらーにされてしまったFeugenには同情の涙を禁じ得ない。

 

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Lowly Squire

「後輩ができたら、自分がやられてきたことをやってやろうという暗い希望を抱きながら日々を過ごしている。」

原文:But not the lowliest!(でも一番下じゃないからね!)

こちらも翻訳者によって暗い希望を植え付けられ、ネクラ設定にされた被害者である。妙に具体性に富んでいるが、翻訳者の実体験なんだろうか。

 

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Bolster

「攻撃は最大の防御。人格攻撃を含む。」

原文:The best offence is a good defense.(最大の攻撃とはよい防御のことだ。)

「攻撃は最大の防御」は "The best defense is a good offense."。原文はその有名なフレーズをひっくり返しているのだが、翻訳はなぜかそれを無視して、更に謎のメッセージを付け加えている。流石に誤訳とは思えないので、翻訳者がご自身の人生観をどうしても伝えたかったのだろう…

 

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Dark Bargain

「「相手のミニオンを破壊する」「自分のカードを破棄する」両方やらなくっちゃあならないってのがつらいところだな。覚悟はいいか?オレはできてる。」

原文:A prime example of lose-lose negotiating.(互いが損をする交渉の一番いい例。)

なぜか勝手にパロディ(ジョジョ五部)。*1原文に面白みが欠けると思った時か、それとも筆が乗った時なのかはわからないが、翻訳で勝手にパロディを始める傾向は他にも見られる。

 

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Sea Giant

「噂では、ヤツには子供がいて、その子を巡って育ての巨人ともめてるらしい。」

原文:See? Giant. (見える?巨人。)

ここからダジャレシリーズ。原文はSeeとSeaを掛けている。もちろんこのまま翻訳できないので、翻訳者は勝手に話を創作して新キャラまで生み出している。「海(産み)の巨人」と「育ての巨人」。Blizzardは自由だな。

 

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Pit FIghter

「どこかの猫の妖精を間違えないように。」

原文:What did the pits ever do to you?(その最悪な奴は今までお前に何をしたんだ?)

翻訳の言ってること、わかりますか?そう、ケット・シーです。ほんとくだらないですね!原文は、pit(闘犬場、闘鶏場)とthe pits(最悪な奴)をかけているだけ。

 

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Effigy

「えーと、これが「萌えフィギュア」ってヤツなんだよな?」

原文:Burning man. brah.(燃えてる男だぜ。兄弟。)*2

Effigyは権力者など憎むべき相手を象った人形のこと。暴徒がそういった人形を絞首刑にしたり燃やしたりするのをテレビなどで見たことがあると思う。そんな非常に政治的な「燃え」を「萌え」へ変換してネタ化する日本文化の恐ろしさよ。

 

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Seal of Champions

「勇者のお宅を訪問し、その立派な門構えをご紹介。「勇者の門ショー」、毎週日曜9時、絶賛放映中。」

原文:"Arf! Arf! Arf!" - Seal of Champions(「オゥ!オゥ!オゥ!」–チャンピオンのアザラシ/紋章(seal))

原文はseal(紋章)をseal(アザラシ)と読み替えている。翻訳は「紋章」と「門ショー」を掛けている。これはわかりづらい。最初、Arf!Arf!Arf!というお宅訪問のリアリティー番組でもあるのかと思って必死に調べてしまった。

 

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Shadowfiend(影の悪霊)

「シャドーフィーンドはその名の通り、薄暗い屋内を好む…その、フィーンドア派だ。」

原文:Hopes to be promoted to "Shadowfriend" someday.(いつの日か「影の友達(Shadowfriend)」に昇格できることを夢見ている。)

原文はfiend(悪霊)とfriend(友達)をかけているのだが、翻訳は思い切って「フィーンドア派」。やっぱりネクラ設定にされる。やはりゲームなんてnerdの文化ということか…

 

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One-Eyed Cheat

「海賊は酒とお宝に目がないどころか、手も足もないことが多い。」

原文:When pirates say there is no "Eye" in "team," they are very literal about it.(海賊たちが「チーム」の中に「アイ」はないって言う時、それは文字通りの意味なんだ。)

この原文は「チーム(TEAM)のスペルには私(I)はない」(=自分勝手なプレイは慎みなさいという戒め)を元にしたもの。ゲームの原文テキストの方は、アイを私(I)と眼(Eye)でかけている。ちなみにマイケル・ジョーダンはこう言われた時に「でも勝利(WIN)の中に私(I)はあるぜ」と返答したらしい。翻訳も原文とは違う方向性だけど上手くダジャレに昇華できている。

 

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Salty Dog

「壊血病から快復して以来、やたら揉め事に首を突っ込んでは解決しようとするようになった。」

原文:He's recently recovered from being a "scurvy dog."(彼は最近、「壊血病の/卑劣な(scurvy)奴」であることから快復した。)

scurvyを「壊血病」と「卑劣な」という二つの意味で取り、名前の「老練な海の(Salty)奴」と掛けている。翻訳で「壊血」と「解决」がかかっていたのには気づいていましたか?ちなみに私は原文のダジャレを見るまで気が付かなかった。翻訳者の隠れた努力。

 

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Armored Warhorse

「料理にも掃除にも便利…って、その重曹じゃねえ!」

原文:Yep. It's a horse... wearing armor... going to war.(そうさ。そりゃ馬で…鎧を着ていて…戦争に行く。)

重曹」と「重装」を掛けているのはわかる。原文を見ても特にダジャレは見当たらないが、今まで見てきたように翻訳が言葉遊びを入れているからには原文も何か入っているはずだ。頭を捻って考えたところ、原文は ArmorとMurmur(ぶつぶつ言う)を掛けているのかな、と推測してみた。でも、これはあまり自信がない。

 

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Wildwalker

「だから、そうやない。こうや!」

原文:She was born to be something. She is just not quite sure what yet...(彼女はなにかすごい奴になるために生まれた。彼女はまだそれが何かわかっていない…)

原文はもちろん Born to be wild とかけている。翻訳がどうしてノリツッコミになったのかは誰にもわからない。

 

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Frostbolt

「このカードを使う時は、「さあ何がクール(来る)?」「ここに氷ん(降臨)!」「我永遠に君をアイス(愛す)」等、サム〜いダジャレを言うのが作法だ。」

原文:It is customary to yell "Chill out!" or "Freeze!" or "Ice ice, baby!" when you play this card.(このカードをプレイするときは、「落ち着け!(Chill out!)」「動くな!(Freeze!)」「アイス、アイス、ベイビー!」と叫ぶのが作法だ。)

翻訳はっちゃけ過ぎ!と思われるかもしれないが、原文もちゃんとダジャレである。でも「サム〜いダジャレ」にあたる箇所は原文にはないかな。「アイス、アイス、ベイビー」はヴァニラ・アイスの有名な曲。俺がアイスだぜベイビーぐらいで特に意味はない。

 

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Velen's Chosen

「ヴェレンはティランダに「ステキなカード」を送ったことがある。それにはディープラン・トラムが描かれてて、「ガッタンゾッコン、そなたにポッポー!」ってフキダシがそえられてたんだとさ。」

原文:Velen wrote a "Lovely Card" for Tyrande with a picture of the Deeprun Tram that said "I Choo-Choo-Choose you!"(ヴェレンは「ステキなカード」をティランダに送った。それにはディープラン・トラムが描かれていて、このように記してあった。「私はキミをチューチューチューズ!」)

これが最後。「ガッタンゾッコン、そなたにポッポー!」。初めてこれを読んだ時、まったく意味がわからなかった。トラムとは路面電車のこと。それがわかれば勘の良い人なら気づけるかもしれない。原文には元ネタがあって、下の画像を見れば一発だ。

 

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おわかり頂けただろうか?チューチュートレイン(幼児言葉で汽車のこと)とチューズ(選ぶ)を掛けているのだ。カードというのもこのシンプソンズのエピソードを踏まえた設定である。翻訳の「ガッタンゾッコン」「ポッポー!」というのもそういうこと。元ネタのシンプソンズのエピソードは本国ではかなり有名なものらしいが、日本人でそれがわかる人はほとんどいないだろう…

 

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Darkbomb

「「ゴス」デッキを作りたい?だったらこのカードがピッタリだ!」

原文:If you're looking to make an "Emo" deck, this card is perfect!(もし「エモ」デッキをつくりたいなら、このカードが最適だ!)

おまけです。言いたいことはひとつだけ。「エモ」と「ゴス」は違うでしょ!「エモ」と言っても日本人にはわからないということで「ゴス」と訳したんだろうけど、「ゴス」と「エモ」は別物だとサウスパークのゴスキッズたちが力説していたので、リンクを貼っておく。

ご覧になっていかがでしたか?ゴスとエモの違いは理解できましたか?ちなみに私はよくわかりませんでした。

 

もし、解釈等で間違っていたところがあれば、ガンガン指摘して下さい。喜びます。また、全てのフレーバーテキストに目を通したわけではないので、他に面白いものがあれば教えて頂けると嬉しいです。

*1:ブチャラティの元の台詞はこちら。「「任務は遂行する」「部下も守る」「両方」やらなくっちゃあならないってのが「幹部」のつらいところだな 覚悟はいいか?オレはできてる」

*2:バーニング・マンというイベントもあるが、それだとmanも大文字であるべきだと思うのでこう訳した。